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日本の統治構造(2)議院内閣制からの逸脱

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Kokoro (@Oui0128) / X

お久しぶりです。今回は『日本の統治構造』(著 飯尾潤)の2回目ということで議院内閣制から逸脱した日本政治について書いていきます。

 

 現在の日本の政治体制を見ると、議院内閣制の原理から逸脱した現象が目につきます。国会議員の役割は立法だけではなく、内閣を支える政党に所属し首相を選んだり内閣を支えたりする議員と、内閣の権力を監視しながら次の選挙で政権を狙う議員がいます。それゆえに、衆議院選挙は立法活動を行う人を選ぶ機能もだけではなく、政権を選ぶ意味も持っています。一般の有権者にとっても総選挙で政権を選んでいるという意識は多かれ少なかれ持っている事でしょう。

 しかし実際のところは55年体制が成立してから長い間自民党による政権が続き、選挙による政権交代はほとんど起こっていません。そのため、総選挙において政権を選択する事は認識していても、それが首相を選ぶことに繋がるという意識は低い傾向にあります。政権を担う政党が自民党であるというのが自明である場合、首相選びは自民党内の総裁選で選ばれることになり、有権者から国会議員、国会議員から内閣総理大臣という権力委任の繋がりは薄くなっていきます。

 大臣の権力は首相から任命されることで生まれます。それゆえに、内閣として同じ行動原理を持ち連帯責任の原理が働きます。しかし、長期にわたる自民党政権ではこういった大臣の選任の仕組みが曖昧になっていました。当選回数が基準となり、各派閥から首相に推薦されたメンバーリストが渡され、首相はそこから選ぶという慣行が生まれていました。もちろんその中から誰を選ぶかは首相が決める事ができますが、当選回数が基準となり、派閥からの推薦が必要になるとすれば入閣が権利化してしまいます。派閥推薦という条件が加わることによって有権者から完了まで続く権力委任の繋がりの中に異物が入り込んでしまうことになります。そして首相の為に働くのではなく、自分が所属している派閥の為に働くという動機もできてしまいます。さらに、誰もがなりたがる大臣のポストを他の議員に分配するために、頻繁に内閣改造を行って、原則的に大臣の任期は一年という慣行も生まれました。たった一年では大臣として完成させるべき仕事も大幅に制約されるし、経験を積むことで大臣としての能力を伸ばすという機会も失われてしまいます。そういった環境では、大臣が官僚を使いこなして行政を適切に運営して行く事は難しくなり、官僚の言われるがままに行動する大臣が生まれるのも無理はないでしょう。

 現在では大臣は分担した役所の長である、という認識が広まっている。分担自体には何ら問題は無いのだが、組織の長という認識が強いと、議院内閣制の権力委任の繋がりが逆転してしまう。それでは、内閣は首相を中心とした組織ではなく、それぞれが拒否権を持った役所の長である大臣が集まった組織となってしまい、議院内閣制は機能不全に陥ってしまうだろう。この現象を、議会を背景としている議院内閣制に対して、官僚からなる省庁の代理人が集まる『官僚内閣制』と表現することもできるでしょう。

 こうした日本における議院内閣制の変質は、時として大きな問題を生み出します。それは、政府における最終意思決定の主体が不明瞭化し、直ちに必要な決定ができなくなってしまうことです。実のところ、日本の議院内閣制の問題として指摘されることの大半は『官僚内閣制』の問題点なのです。