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日本の統治構造(1)議院内閣制

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お久しぶりです。今回は『日本の統治構造』(著 飯尾潤)を読んだので、まとめと感想を書いていきます。今回も長くなると思うので何回かに分けて投稿しようと思います。

 

 日本の政治は迅速でダイナミックな意思決定や社会の要望、変化に合わせた大胆な改革が不足していると言われてきました。その度に問題に挙げられてきたのは『議院内閣制』です。日本は議院内閣制だから思い切った選択ができないというのは政府の批判者達や政府内部から言い訳のように言われることもありました。一方で小泉内閣のような前例もあり、そういった意見が必ずしも正しい訳ではないという意見もあります。

 まず日本政治において議院内閣制というものが正しく運用されているかどうかが問題になります。議院内閣制故に日本では権力が分散化してしまうという批判があります。そのため大統領制を採用して権力集中を図るべきであるという意見もありますが、こうした理解は世界では一般的ではないどころか、むしろ奇妙な目で見られることになるでしょう。例えば、『日本国憲法の原則は三権分立であり、議院内閣制を採用している』という内容に多くの日本人は違和感を感じないでしょうが、アメリカ人やイギリス人が相手だとそうも行きません。周知の通りアメリカは大統領制を、イギリスは議院内閣制を採用していますが、その両国の政治体制はこう考えられています。イギリスは議会主権の国であり、権力が内閣あるいは首相に集中するように議院内閣制を採っている。それに対してアメリカでは権力分立が徹底され、政治権力は議会と大統領で分割されており、権力抑制の側面が強く出ている。つまり、議院内閣制だから権力が分散的であるという日本の政治体制は世界から見ると正しい見方だとは言えないのです。

 

 戦前から始まった内閣制は現在まで続き、1985年には内閣100周年の記念式典が行われました。そもそも議院内閣制と内閣制との違いはなんなのでしょうか。第二次世界大戦終結し敗戦によって憲法が置き換えられたのにも関わらず、根幹となる政治体制はそのまま維持されたのでしょうか。GHQによる戦後の政治改革の目玉として日本国憲法の制定による民主化を上げる事ができます。民主化の用件として選挙が重要になってきますが、戦前の日本でも男性のみであったが完全普通選挙は実現していました。では戦前の政治体制の何が問題だったのかと言うと、選挙で選ばれた議員で構成される議院の権限が極めて限定的だったことにあります。日本国憲法制定による重要な変更点は、議院内閣制の採用によって民主的に選ばれた議員で構成される議会に権力が集中した点にあります。こういった点から戦後日本の政治が正しく運用されているかを見る為に議院内閣制が機能しているかどうかをチェックすることが大事になるのす。

 内閣制をもう少し理解するために、戦前の日本政治について見ていきたいと思います。戦前にも立憲政友会を基盤とする原敬内閣や、立憲民政党を基盤とする浜口雄幸内閣などが存在し、現在の議院内閣制とさして変わらない政治の運用がされていた時期もありました。しかし、明治憲法には内閣という言葉や内閣総理大臣についての規定も無く、戦前の政治体制は法的には国民によって選ばれた衆議院の権限が少なく、明治憲法では『超然内閣』(政党とは無関係に官僚が中心となって組織する内閣)こそが正当な政治体制だったのです。そうした制度だったのにも関わらず、少しの時期でも政党内閣が成立していたことで議院内閣制のような政治が実現していたに過ぎなかったのです。

 明治憲法制定前には現在の議院内閣制のような内閣総理大臣に強い権限が集まるようすべきである、という意見もありました。しかし、強大なリーダーを置くことは昔の幕府的な存在を生み出すことになりかねない、という意見や実質的な政治の中心が明確になることは、建前としての天皇を中心とした政治体制という理念と相反することになるという反対意見も多かったのです。1889年に制定された明治憲法では内閣総理大臣の権限は弱められていました。

 

 先進諸国に限れば、政治体制は大統領制と議院内閣制の二つに分けられます。この二つを分ける最も大きな点は、二元代表制か一元代表制かの違いです。大統領制では、大統領と議会が別々に国民から選ばれ、それぞれが正当性を有しています。その為、民意が二元的に代表されることになります。一方議院内閣制は議会のみが国民から選ばれるため、その議会の正当性を土台として内閣が成立します。その為、民意は一元的に代表されます。この点から見れば、議院内閣制の方が大統領制よりも権力集中型と言えます。日本も採用している議院内閣制の最も重要な点は行政を担っている内閣が国民の投票で選ばれた議会の信任によって成立しているところにあります。

  議院内閣制では、民主制における代表関係が一貫しており、一つの連鎖になっていることが大切なのです。つまり、有権者が国会議員(衆議院議員)を選挙で選無ことで、彼らは国民の代表としての権限を得る事ができます。その次に、国会議員が内閣総理大臣を選任することで、首相は内閣を組織して運営するための権限を得ます。そして、首相が行政を運営するために複数人の国務大臣を任命し、彼らを内閣の構成員とします。各大臣は分担して行政を運営することになりますが、その際に各省庁の官僚による補助を受けます。形式的には官僚も大臣が任命することになりますが、資格任用制度の導入などで実際に大臣が全ての官僚を任命している訳ではありません。その様な場合でも、官僚の権限はあくまでも大臣を補助するための権限に由来しています。このように、有権者から国会議員、首相、大臣、官僚と権力委任の連鎖が生じている所に、議院内閣制が一元代表制であり、民主制であることが理解できると思います。