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日本の統治機構(7)政権交代無き政党政治

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お久しぶりです。今回は『日本の統治構造』(著 飯尾潤)の7回目ということで政権交代無き政党政治について書いていきます。

 

 議院内閣制が機能する為には、政党政治の確率が不可欠です。世の中にはありとあらゆる利害や意見があり、そのような意見を議会に反映し、まとめるかが問題になります。議会に多様な意見がある場合でも、結果を出す為には誰かが説得されて意見を変える必要が出てきます。しかし、議員は自分の意見に忠実なだけでは務まりません。なぜなら、議員は支持者からの委任によって選ばれるため、ある程度の行動は縛られることになるのです。議院内閣制では、議会に政権の基盤があるため、政権党は政権を擁護する議決を行います。そのため、議員の行動も政党の枠組みに縛られる割合が大きいです。どのような規模の政党でも意見調整、集約を行うことは必要であり、政党の役割は世の中の意見や利害を集約して有権者に選択肢を増やすことにあります。現代の民主制は政策の良し悪しを比較するために、自由な競争の中で無理にでも複数の選択肢を作る競争的政党制を取っています。

 

 民主制の中でも議院内閣制と大統領制では政党の意味が変わってきます。大統領制では民意集約としての意味もありますが、権力獲得手段としての側面が大きいです。なぜなら議会と大統領という二つの違った方法で民意が選ばれるため、政党単位で民意を集めることに合理性がないからです。それに対して議院内閣制では、健全な政党政治が不可欠な要素となります。政権の基盤が議会に置かれるため、議会の支持がある程度安定化しなければ政権が安定しない為です。そこで議院内閣制では、ある程度安定した議会内における多数派が存在することが重要になります。選挙によって選ばれた多数派が内閣を支えるならば、内閣が民主的正当性を主張できるため議会内の多数派が選挙によって選ばれることが好ましいです。その安定した多数派を生み出すために、政党が必要なのです。

 民主制のもとで選挙で政権を選ぶ為には政党政治の確立が求められます。なぜなら、有権者の組織化、選挙活動、議会における議員活動の拘束、役職の配分と言った機能を政党が一貫して行うことで、政治家の行動に規律を与え、有権者の選挙における選択が選挙後の政治に強い影響を与えることができるのです。各政党が固有の基盤を持っていて議席が変動しにくい場合には、選挙後の連立交渉のよって政権が成立することも多いです。その場合は選挙での選択がそのまま政権の選択には繋がらないため、民主化の度合いは低くなります。そこで選挙による政権選択は二元代表制固有の仕組みであると考えがちですが、選挙前の連合の成立などによって他党制でも十分に民主的な政権選択選挙を行うことは可能になります。

 こういった一般の理論を照らし合わせた時、日本の議院内閣制の決定的な欠点が明らかになります。それは特定の政党が政権を独占する一党優位制が長期に渡り、政権選択選挙が意味をなしておらず、有権者の選択によって首相や内閣が成立するということが非常に少なくなったということです。政権の座をめぐる争いは自民党内の派閥抗争によるところが多く、有権者の多くは傍観者として眺めるだけになっていた。このような状況では首相や内閣が民意の支持を頼りに明確な政権の方向を打ち出すことは難しく、官僚の統制という面からも、民意に基づいて成立したという正当性を有していないことは大きな限界となっていました。

 日本において一党優位制が長期間に渡って続いているという問題は一見簡単なように見えてとても難しい問題です。かつては『自民党による独裁』『自民党による政権独裁体制』と言われていましたが、日本の政治体制を鑑みるとこう言った言葉は適切ではありません。政治学では価値中立的に自民党による長期政権のことを『一党優位制』と表しています。民主的に公平な選挙の結果によって選ばれているため、一党独裁体制とは明確に違うものの、一党が長期にわたって政権を維持し続け政権党が変わるという意味の政権交代が起こらない状況を指しています。

 自民党が長期に渡って政権を維持できたのにはいくつか理由があります。例えば、『疑似政権交代』としての首相と内閣の交代です。議院内閣制では総選挙において多数党が勝利することが首相や内閣の交代に繋がるのが通例です。しかし、自民党長期政権においては自民党の総裁選挙で交代することが多く、首相交代と総選挙の繋がりは薄くなっていきました。ですが、首相や内閣が交代することは見かけ上の政権交代イメージを与え、政策の方針転換のきっかけになるなど実質的な意味も大きくありました。しかし、自民党総裁による政権交代に大多数の有権者は関与できません。その為、首相選びは自民党の都合で決まることが多く、大対数の有権者は観客となってしまうのです。