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民主主義の歩み(4)日本における民主主義

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お久しぶりです。今回は『民主主義とは何か』(著者 宇野重規)の4回目ということで日本における民主主義ということで書いていきます。

 

 日本における民主主義の始まりは幕末の明治維新に見る事ができます。明治政府が発表した基本方針である『五箇条の御誓文』における『万機公論ニ決スベシ』という条文は『広ク会議ヲ興シ』という言葉と共に公共的な議論によって国の方針を決定するという理念を掲げるものでした。

 ペリー来航に代表される外国の勢力に対してなんら有効な対策を取れずにいる幕府を尻目に、人々は独自に提案していく様になりました。そこでは藩主や藩中枢の人物だけではなく、多様な人物が藩の境界を超えて交流、議論する様になっていくのです。そうして『身分』に関係なく志によって協力しあう『志士』が誕生することになりました。

 そうして誕生した明治政府ですが、表面的には天皇主権による集権的な外見を呈していましたが、実際にはさまざまな省庁や機関による相互抑制均衡が働いており分権的でした。幕府のような中央集権的な存在を恐れた政府は権力分立の性質を強く持っていました。そのため権力を最終的に統合する為の主体を欠いていました。藩閥や政党だけでは衆議院を掌握できる事ができず、権力を獲得することができていませんでした。その結果として藩閥と政党は相互に協力し合い、伊藤博文を初代総統とする立憲政友会と、桂太郎を筆頭とする立憲同志会などからなる複数政党制が確立しました。最終的には巨大な政党が明治政府の憲法体制を担うことになりました。

 

 戦前に実現した政党政治が長く続かなかったのも事実です。海軍将校らが首相官邸を襲い犬養毅首相を射殺した『五・一五』事件によって戦前の日本における政党政治は終わりを迎えます。この時期世界恐慌の影響を受けた日本は国内に多様な社会問題を抱えていました。これに対し当時の政府はなんら有効な対策を示せず、国民の不満は高まっていくばかりでした。皮肉なことにこの社会的、経済的格差を是正したのは軍主導による総力戦体制(国家総動員体制)でした。当時のこの時期に世界的な格差の減少が進んだのですが、それは各国の総力戦体制への移行が理由だったのです。総力戦を行う為にはその名の通り国民の総力の協力が必要になります。その障害となる経済的、社会的な格差の改革を強行することで結果として国民全体が平等になっていったのです。

 

 1945年8月、日本は連合国に対して降伏しました。そしてアメリカを中心とする連合国の占領下に入ります。この占領下における改革によって女性参政権の実現、労働組合の結成、学校教育の民主化、秘密警察の廃止、政教分離などの更なる民主化の為の策が行われていきました。そして更なる経済の発展のために財閥解体と農地解放などが実行されました。ここまできてようやく日本の民主化が基礎的な水準まで及びます。

 

 1990年代以降は、日本の政治制度を大きく転換する改革が続きました。1994年の政治改革4法の成立による選挙制度改革、1998年の中央省庁等改革基本法に基づく内閣機能の強化と省庁再編による行政改革、そして1999年の地方分権一括法制定による地方分権改革などが続きました。そしてこの間に司法制度改革や中央銀行改革が進んだことも併せて考えるとこの時期の改革は明治初期や戦後の大規模改革と並ぶ重要な政治改革と言えそうです。しかし、この改革の成果については今も議論の余地があります。

 

 民主主義を『参加と責任のシステム』の観点から見て、現代の日本の民主主義における『参加』や『責任』が正常に機能してるとは言えない状況です。その主な原因として投票率の低下が挙げられます。世代別の投票率を見てみると、衆議院選挙における20代の投票率は30%程度を推移しています。全体の投票率を見ても国政選挙ですら5割前後と他の国と比べても低い傾向にあります。投票率の増加を狙って改正公職選挙法が成立し、選挙年齢が18歳に引き下げられました。日本で選挙権が拡大されるのは戦後の改革にて実施された完全普通選挙以来のことですが、依然として若者の投票率は極めて低いと言わざるを得ません。2019年の参議院選挙前に行われた言論NPOが行った世論調査では『日本の代表民主主義の仕組みを信頼しているか』という質問に対して、『信頼している』と回答している人(どちらかと言うと信頼している、も含む)は32.5%でした。約3割の人しか自分が選んだ代表によって行われる政治というもののあり方を信頼していなかったのです。この結果の背景については多様な議論の余地があると思いますが、いずれにせよ日本の政治体制についての不満や疑念と言ったものが拡大しているのは間違いないでしょう。しかし、民主主義の歴史において深刻化するさまざまな課題に対して政治が有効な対策を実行できていない時に、新たな改革や新しい政治体制への可能性が高まってきた事がわかります。現代の代議制民主主義が機能不全を起こす時、新たな政治体制への模索が始まるのかもしれません。